学会報告のお知らせ
(2019年5月18日、社会経済史学会第88回全国大会)

「風土病」の克服は日本社会をどう変えたのか?

2019年5月18日(土)に青山学院大学で開催される社会経済史学会第88回全国大会において、「感染症アーカイブズ」のメンバーがパネルを組んで、研究成果を報告します。大会の詳細につきましては、社会経済史学会のwebsiteをご覧ください。http://sehs.ssoj.info/

「「風土病」の克服は日本社会をどう変えたのか?」(オーガナイザー:市川智生(沖縄国際大学))

2019.5.18(土) 13:30-16:30

戦後の日本社会は、官学民の協力により、日本住血吸虫症、リンパ系フィラリア症、マラリアや回虫症などの寄生虫感染症を制圧した。これらの疾病は、自然環境に由来する地域限局性から、かつては「風土病」(あるいは「地方病」)と呼ばれていたものである。その克服経験は、戦後復興および経済成長による結果として認識される傾向にある。国内の問題が解決に向かった後、寄生虫学領域の応用は、東アジア、東南アジア、アフリカ諸国での国際医療協力へと展開したこともあり、特にその傾向が強い。
佐々学(1916-2006)は『日本の風土病:病魔になやむ僻地の実態』(1959)のなかで、本来忌むべきはずの「風土病」の実態を通して、地方色豊かな日本の地域像を見事に描き出した。その後、多くの寄生虫感染症が減少した1950年代から1970年代は、戦後の高度経済成長によって、国民生活が大きく変化し画一化が進行した時期でもあった。
本パネル・セッションの目的は、「風土病」が克服されることによって、日本の地域社会がどのような変貌を遂げたのかという点について、疾病および地域の相違を踏まえた議論を行うことにある。ここでは、歴史学研究だけでなく、寄生虫学研究や公衆衛生学研究サイドからのメンバーも加わり、複数の事例を題材としたい。
セッションでは、長崎県島嶼部のリンパ系フィラリア症、筑後川流域の日本住血吸虫症、より一般的な寄生虫感染症として回虫症の計三つの事例報告を行う。それぞれが蔓延していた地域社会、自然環境を前提とした疾病ごとの特徴は何だったのか。そして、それぞれの「風土病」はどのような方法で克服され、その地域の保健医療、さらには住民の生活の変化にどのような変化を生じさせたのかを議論したい。いずれの報告者も、寄生虫学研究の過去の記録を歴史資料として整理・保全される試みに積極的に関与している。そこで、本セッションでは、感染症研究のデータを残し、歴史研究にいかに利用すべきなのかという点についても注意を払いたい。

 

司会:市川智生(沖縄国際大学)

第1報告「戦後日本の島嶼部における保健医療:リンパ系フィラリア対策事業を中心として」市川智生(沖縄国際大学総合文化学部)
第2報告「筑後川流域における日本住血吸虫症対策と住民参加:元患者のオーラル・ヒストリー」長谷川光子(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
第3報告「回虫症対策から見た地域社会:日本寄生虫予防会の設立と活動」井上弘樹(日本学術振興会特別研究員)

コメント1(寄生虫学研究の視点から):千種雄一(獨協医科大学)
コメント2(日本経済史研究の視点から):斎藤修(一橋大学名誉教授)